
2024年2月22日、日経平均株価は34年ぶりに、3万8915円の最高値を更新した。それから半月も経たぬ3月4日、今度は4万円の大台に乗せた。だが、バブル期には日本中を熱狂の渦に巻き込んだ株高を、いま街行く人たちはどこか冷めて見ている。
現在の冷静とバブル期の情熱の間。バブル後の34年間に人々の株式離れが進んだからだろうか。それもあろうが、何よりも株価と実体経済の指標の乖離が目立っている。代表的な指標を挙げよう。
▼24年1月の景気ウオッチャー(街角景気調査)……2月8日発表。3カ月前と比べた現状判断指数は50.2と前月比1.6ポイント低下。低下は4カ月ぶり。
▼23年10~12月期のGDP(国内総生産)……2月15日発表。実質で前期比年率0.4%減少。マイナス成長は2四半期連続。英BBCは「リセッション(景気後退)」と報道。これについては最後にまた触れる。
▼24年1月の鉱工業生産……2月29日発表。前月比7.5%減少。経済産業省は基調判断を「一進一退」から「一進一退ながら弱含み」と引き下げ。
2月21日に発表した「月例経済報告」で、政府は景気の基調判断を「このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」に引き下げた。1月の「一部に足踏み」から「一部に」を削除したのだ。
まさに日本経済はこのところ「足踏み」している。そのさなかに、日本株は「大躍進」を遂げている。多くの国内投資家は狐につままれたような気持ちでこの大躍進を眺めている。なぜならば、大躍進の主役は外国人投資家の日本株買いだからだ。
日本ばかりではない。代表的な欧州企業で構成するストックス欧州600も2月22日に2年ぶりに最高値を更新している。欧州委員会は2月15日に公表した24年の見通しで、ユーロ圏20カ国の実質成長率を0.8%と、前回から0.4ポイント下方修正したばかり。
なかでも厳しいのはドイツだ。ドイツ商工会議所は2月15日、24年のドイツの実質成長率はマイナス0.5%になるとの見通しを示した。そうなると、23年に続き2年連続のマイナス成長となる。それでも欧州の株価も日本の後を追うように最高値を更新した。
AI革命の波に乗る「半導体製造装置」の競争力
日欧に共通する2月22日という日付がポイントだ。日本時間のこの日、午前6時に米半導体大手のエヌビディアが売上高3.7倍、純利益8.7倍という仰天の好決算を発表したのである。日本では東京エレクトロン、欧州ではオランダのASMLホールディングといった半導体製造装置メーカーの株が急騰し、株高の原動力になった。
生成AI(人工知能)の登場が火を付けたAI革命。カギを握るGPU(画像処理装置)用の半導体で圧倒的な強さを誇るエヌビディアが有卦に入り、その半導体をつくるために半導体製造装置や関連機器に注文が殺到する。AI革命を「21世紀のゴールドラッシュ」とすれば、確実にもうかるのはスコップやシャベルに相当する半導体と半導体製造装置という構図だ。
同じ半導体といっても、CPU(中央演算処理装置)向けは鉱脈から外れている。その意味で、米国のインテルや韓国のサムスンはゴールドラッシュに乗り切れていない。むしろエヌビディアからの受託生産を一手に引き受ける台湾のTSMCは、今回も欠かせない存在として君臨し続ける。そんな位置づけは各社の株価にクッキリと表れている。
それにしても、ひとつひっかかる。垂直離陸機が飛び立つような今回の株高は、米国が起点のはずなのに、いつの間にか日本株の上昇率が米国株を上回っているのはなぜか、という問題である。日経平均とニューヨーク・ダウ工業株30種平均を比べてみよう。
3月1日時点の終値は日経平均が3万9910円、ダウ平均が3万9087ドル。両者の絶対値はほぼ同水準ながら、日経平均がダウ平均を8年ぶりに上回っているのだ。日米の経済や企業収益の実力を比べる限り、ちょっと面はゆいほど日本株は高評価されている。……

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