やっぱり残るは食欲
やっぱり残るは食欲

手間チャプチェ

執筆者:阿川佐和子 2024年7月11日
タグ: 日本
エリア: アジア
チャプチェの主役は春雨(写真はイメージです)

 近所に韓国食料品店がある。以前から気になっていたのだが、先日、思い切って入ってみた。なにも買う当てはなかったが、他に客がいなくて、お店のお兄さんがいい感じののほほんモードだったので、買わないと申し訳ない気がしてきた。そこで思い出した。

「韓国春雨、ありますか?」

 するとのほほんお兄ちゃんが、のほほんのわりにはすばやく棚に手を伸ばし、

「はい」

 特大ポテトチップスかと思うほどの大きさの袋を差し出した。中には日本の春雨より太くて茶色い色をした乾燥春雨が詰まっている。こんなにたくさん。一瞬、そう思ったが、目の前ののほほん君がニコニコしているので、

「じゃ、これ一つ」

 すると、

「これもありますよ」

 のほほん君が『チャプチェの素』という袋を手にしている。うーん、それはいらないかな。笑いながら首を傾げたら、ニッコリ笑って素直に引き下がった。いい人だなあ。さらに好感を持った。そこで、春雨だけでは悪い気がして、

「キムチはありますか?」

 のほほん君がまた店内をススッと移動して冷蔵ケースを指さした。

「こっちが白菜キムチ。こっちがカクテキ。あと青菜とネギと……」

 けっこう種類が豊富なので迷ったが、なんといっても私は白菜キムチ派だ。

「じゃ、この白菜キムチを一袋」

 一キロ近くありそうな重さに驚いたが、のほほん君が嬉しそうだったので購入した。

 さあ、今夜はチャプチェにしよう!

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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