
【前回まで】中国国家安全部の劉唯は、都倉と米国防長官の会談予定を掴んでいた。なぜハワイなのか、なぜ1対1なのか…。米国は都倉を次期総理に考えていると劉唯は告げた。
Episode6 一世一代
22
翌週、磯部は、都倉大臣の随行として政府専用機で、ハワイに向かった。
防衛省のみならず、総理からも会談の目的について具体的な内容をアメリカ側に求めたのだが、返ってきたのは、「新防衛相と改めて日米安全保障条約の今後について、腹を割った話をしたい」という抽象的なものだった。
防衛省の対米担当部署や、自衛隊の各幕僚監部のネットワークを通じても情報収集を行った。
そこで、ぼんやりと浮かび上がってきたのは、防衛費の更なる拡大、米軍への「思いやり予算」の増額、空母艦載用の戦闘機F35Bの早期配備などだった。
だが、その程度なら、このタイミングで防衛大臣をハワイまで呼びつける必要はないだろう。他の理由が、あるはずだ。
磯部は、かつて駐米大使館に勤務したことがある。その期間、国防総省(ペンタゴン)やアメリカの情報機関の関係者とのネットワークも構築した。
今回の会談の真の目的を探るために、その人脈をフルに活用し、必死で情報収集したが、それでも、納得できるレベルの収穫はなかった。
唯一、昨夜になってホワイトハウスにいる“友人”から、沖縄の米軍基地に、戦略核ミサイルの配備を求めようとする動きがあるという情報を得た。
提案者は、対中強硬派で知られる安全保障担当の特別補佐官で、バーンズ国防長官もそれを支持したが、大統領が却下したらしい。
――今回のハワイ会談では、ホワイトハウスから離れた場所に、日本の防衛大臣を呼びつけ、日本側からミサイル配備を大統領に強く要請せよと圧力を掛けるつもりかもしれない。
あくまでも“友人”の観測だったが、磯部は、かなりの説得力を感じた。
だとすれば、最悪だ。
都倉の耳に、その情報を入れると、「私は、日本国の防衛大臣であり、アメリカのご命令には従えない、と返すわ」と明言した。
考えてみれば、そんな無理筋を押し込む相手として、都倉がふさわしいとは思えない。
また、振り出しに戻ってしまった。都倉がハワイに呼びつけられた理由が、見つからない。
「ちょっと、いいですか」
樋口が声をかけてきた。磯部は頷いて、秘書官室に入った。
「韓国海軍の友人から得た情報なんですが」

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。