Weekly北朝鮮『労働新聞』 (82)

訪朝したショイグを金正恩が厚遇(2024年9月8日~9月14日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年9月17日
エリア: アジア
専用車の運転席に金正恩国務委員長が、助手席にショイグ安全保障会議書記が乗る(KCNA via KNS/AFP=時事)
建国76周年慶祝集会は金正恩国務委員長の出席がない地味な祝われ方だったが、『労働新聞』では元日以来となる習近平・中国国家主席からの祝電が紹介された。ロシアのショイグ安全保障会議書記訪朝では、金正恩は専用車の助手席に乗せ自らハンドルを握る厚遇だった。日本の自民党総裁選については付随的に一言触れた記事があったが、日朝平壌宣言の当事者・小泉純一郎元首相の息子である小泉進次郎元環境相に『労働新聞』が言及したことはいまだない。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】
 

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長による軍事関連の動静報道が目立つ1週間であった。9月8日付の第1面と第2面は、金正恩が呉振宇(オ・ジヌ)名称砲兵総合軍官学校を視察したとの報道であった。金正恩による同校への訪問は初めてと見られる。金日成(キム・イルソン)主席の弟の名が冠された金哲柱(キム・チョルジュ)砲兵総合軍官学校から現在の名称への変更が『労働新聞』上で確認されたのは2017年である。呉振宇は、1976年から1995年の死去まで人民武力部長(現在の国防相に該当)を務め、金日成、金正日(キム・ジョンイル)両政権を支えた重要人物であり、1992年には金正日とともに共和国元帥の称号を授与されている。息子の呉日晶(オ・イルジョン)は現在、朝鮮労働党軍政指導部長である。

 第3面は、海軍基地建設のための「現地了解」と国防工業企業所への現地指導、第4面は、船舶建造事業に対する現地指導についてそれぞれ報じた。

 9日には北朝鮮が建国76周年を迎えた。昨年や2021年には民兵による閲兵式が挙行されたことなどに比べると地味な祝われ方であった。同日付第1面は、金日成広場で慶祝集会と夜会が開催されたことを伝えたが、金正恩は不在であり、出席幹部としては金徳訓(キム・ドックン)、崔龍海(チェ・リョンヘ)の名だけが紹介された。錦繍山(クムスサン)太陽宮殿への参拝にも欠席である。

 第3面には国慶節に際して各国首脳から送られた金正恩宛ての祝電が掲載された。掲載順は、ロシア、中国、ベトナム、ラオス、キューバである。習近平・中国国家主席からの祝電は今年元日以来であり、文中で今年が「中朝友好年(親善の年)」である事実が久しぶりに確認された。

 10日付は、9日に金正恩が行った演説「偉大なわが国家の隆盛繫栄のためにさらに奮闘しよう」について3ページで報じた。全体として、これまでに提示してきた政策を確認するにとどまった。紙面には全文ではなく整理された内容が掲載された形だが、「全文は印刷出版され、党及び政府機関に配布される」という。

 金正恩は、「70年、80年近くもの間、成し遂げられなかった事業だといって、まだ地方発展構想に対する懐疑的な態度と立場を持っている人たちも確かにいるでしょう」としつつも、それが実現可能であると確言した。「地方発展20×10政策」の成果として、年末には20の市・郡で地方工業工場を完工させるとの方針を再確認したほか、今年の農作物については「全般的に良い」との評価を下した。

 国防分野の実績としては、「大きな画期的結果を勝ち取った」との抽象的な表現ばかりであった。5月の偵察衛星打ち上げ失敗には触れていない。2022年には50発以上の弾道ミサイル発射があったが、2023年には半減し、今年はさらに急減している。金正恩は、「核兵器の数を幾何級数的に増やす」方針や北朝鮮が「責任ある核保有国」であることを再確認した。

カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top