「このような結果になってとても悲しく、信じられない。AfD(ドイツのための選択肢)を支持する隣人は、『外国人は罪を犯す』という偏見に満ちた主張をする。彼らは、反民主主義的なAfDが力を持てば、自分たちの権利も再び制限されかねないということに気づいていない」
9月1日に行われた独東部2州の地方選挙での極右政党AfD躍進を受け、旧東独出身で、同国倒壊のきっかけになったライプチヒでの民主化要求デモに参加した経験を持つ60代の女性はそう語った。
同党はチューリンゲン州で32.8%の票を得て州議会で第一党、ザクセン州では30.6%の票を得て第二党となった。その躍進は以前から予想されていたものの、ドイツ社会に強い衝撃を与えている。ドイツ東部の2州を合わせた人口は約620万人で、全土の約7%程度に過ぎない。しかし、この結果によって、他地域でもAfD支持が高まることが懸念されている。そのために「再び壁を建設せよ」などという発言がソーシャルメディアなどでもみられた。
右派に反対する若者は大都市や旧西独へ
ザクセン州で生まれ育ち、州都ドレスデン市に住みながら、同市に住む外国人の支援をする60代後半の年金生活者の男性は言う。「以前から予想されていたものの、このような選挙結果が出ると辛い。特に若い人がAfDを支持しているので、この状況から抜け出すのは非常に難しいだろう」
18歳から24歳の若者の間では、AfDは最も強く支持された政党となり、チューリンゲンで38%、ザクセンで31%が投票した。同党はソーシャルメディアのTikTokを通じて若者にアプローチし、自分たちを「問題を解決できる政党」として見せてきたと指摘されている。ポツダム大学教授ローランド・フェルヴィーベは、16歳から24歳の若者の半数はTikTokからのみ政治に関する情報を得ており、AfDはTikTokの使い方を熟知して効果的に自分たちの主張を伝えていると、独メディア「ドイチェ・ヴェレ」に述べている。
しかし、問題はそれだけではなく、既存の状況に不満を抱えた若者が政治に変化を求めていることの表れだと、チューリンゲン州イエナにある「民主主義と市民社会研究所」科学ディレクターのアクセル・サルハイザーは独紙「南ドイツ新聞」に答えている。
AfDは移民の「侵入」による社会の悪化、表現の自由の制限、不確かな未来といった不安を若者の間に煽る。それに対して既存政党は十分に対処できておらず、若者たちは、「危機にさらされた自分たちは、エリートたちから気にかけられていないのだ」と思い込む。そしてAfDは、我が党こそが疎外された若者を代弁する「抵抗政党」であると訴え、支持を集めてきたのだ。
サルハイザーによると、右派に反対するリベラルな若者は右派に敵視され、疎外されるため、旧東独の大都市か旧西独地域に移動しがちだという。今回の選挙で、AfDはブルーカラーの労働者の4割、比較的低学歴(大学進学のための高校卒業証明書を持たない)層の4割強に支持された。高学歴で多様な職業の人々が集まる傾向のあるドレスデンやライプチヒなどの大都市ではCDU(キリスト教民主同盟)がより強い支持を集め、選挙区によっては緑の党や左翼党の候補者が選出されている。東部の大都市には国際的な大学と産業があり、人材が集まる大都市では、AfDへの投票は2割程度と比較的低い。一方、人材流出が続く地方部は、さらに保守化する傾向が見られる。
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