アルメニア「サバイバル戦略の行方」(2) 圧迫される国土

執筆者:国末憲人 2024年10月26日
タグ: 紛争
エリア: ヨーロッパ
自宅のベランダから東方を指さすアンティカ・ゴニヤン。左前方の白い建物がアルメニア国境警備隊の詰め所。その先はアゼルバイジャン領(筆者撮影、以下すべて)
アルメニア南部の国境沿いにあるダヴィット・ベック村は、第1次・第2次紛争中にアゼルバイジャン軍から計6回の砲撃を受けた。訪問した民家の塀には、ロケット弾の破片だという金属の筒が掲げてあった。アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフを制圧した昨年9月以降も、アルメニアに対して領土や憲法改正の要求といった締め付けを続けている。両国の間では軍事力でも外交力でも大きな格差が開いてしまった。これを避ける道は、どこかになかったのだろうか。

 

 その村、ダヴィット・ベックの名を初めて耳にしたのは、アルメニア南部シュニク州の州都カパンを訪れた時だった。ここでNGOを主宰する女性アニー・サルグシアン(33)からである。

 アゼルバイジャンは2023年9月、ソ連時代の自治州だったナゴルノ・カラバフを事実上武力で制圧した。そこに暮らしていたアルメニア系住民12万人は、ほぼ全員がアルメニア本土に避難民となって脱出した。このうちの数百人前後がカパン周辺に移り住んでおり、サルグシアンたちはその支援に取り組んでいる。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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