世界の気候変動政策をリードしてきたEU(欧州連合)の政策に揺らぎが見られる。6月6~9日に実施された欧州議会選挙で、事前の予想通り右派・保守勢力が伸張し、左派・環境派が退潮傾向を示した。選挙結果を踏まえて発足する新しい欧州委員会の体制の下、EUの脱炭素政策がどう進められていくのか、またEU加盟国での実際の政策遂行がどうなるのかが、注目の的となっている。インフレによる生活難や景気低迷・産業不振に苦しむ欧州諸国において、脱炭素化推進のためとはいえ、生活コスト上昇をもたらしかねない政策を従来と同様に強力に実施していくことができるのかどうかが、新たな重要課題として欧州で顕在化しているのである。カーボンニュートラルなどの実現を目指す「理想」と、経済・社会・政治の「現実」の問題の狭間(はざま)で苦慮する欧州はどこに向かうのだろうか。
「身近な暮らしと経済」深刻化がもたらした選挙結果
6月6~9日に実施された5年ぶりの欧州議会選挙では、大方の予想通り、右派・保守勢力が議席数を伸ばし、左派・環境派が逆に議席を減らす結果となった。6月27日時点の暫定的なまとめでは、中道保守の「欧州人民党(EPP)」が188(前回選挙では176)議席で首位を占めた。しかし、極右とも目される会派「アイデンティティと民主主義(ID)」は58(同49)議席へ、「欧州保守改革党(ECR)」も83(同69)議席へと勢力を伸ばした。ドイツやハンガリーなどの急進的右派勢力、「ドイツのための選択肢(AfD)」や「フィデス」なども合わせて、EPPを除く急進的な右派勢力は全体で議席数の4分の1程度を占めるのではないか、との見方もある。前回選挙での比率が10%台後半であったことから見ると、顕著な勢力拡大であると言っても良いだろう。
逆に退潮が明らかとなったのが左派勢力である。主力会派の一つ、「社会民主進歩同盟(S&D)」は136(同139)議席へ、「欧州刷新(Renew Europe)」は75(同102)議席へと議席数を減らしている。さらに緑の党・欧州自由連合(G/EFA)も54(同71)議席へと大幅に減らした。欧州議会の議席数が全体で705から720に拡大する中で、獲得議席数が減少し、これら会派のシェアはより大きく低下した。
全体としては、親EUの中道会派(EPP、S&D、RE)が主流勢力として全体の過半数を維持している。その点においては、EUとして従来の基本方針の継続が図られていくものと思われるが、今や議会の4分の1を占める急進的右派の影響力増大、その対極にある左派の退潮は、欧州の今後の政策動向に様々な影響を及ぼす可能性がある。また、特に注目すべきは、急進的な右派勢力の大幅な伸張が、ドイツ、フランス、イタリアなどの欧州主要国で見られた点である。
こうした選挙結果をもたらした要因は様々指摘されているが、一言でいえば、これまでのEUのあるいは加盟国の政策に対する民意の評価によるものである、ということになろう。移民問題、コロナ禍への対応、エネルギーコストの上昇を始めとする生活費の上昇、景気低迷と産業不振、雇用・失業問題など身近な暮らしと経済に関する問題の深刻化を受けて、民意の不満がこうした選挙結果をもたらしたといえる。だとすれば、選挙後の新たなEUの指導者や欧州委員会、そして加盟各国はその民意を踏まえての対応が求められていくことになる。
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