「ウクライナ」と「核戦略」で結束する朝露「ならず者同盟」

執筆者:名越健郎 2022年11月25日
エリア: アジア ヨーロッパ
2019年4月にウラジオストクで行われた朝露首脳会談 (c)AFP=時事
ロシアと北朝鮮、世界で最も危険な両国の関係が緊密化している。ロシアから石油や小麦が送られる一方で、北朝鮮からは戦闘服、弾薬、兵士が提供されるとの情報も。ともに先制核使用の原則を打ち出した2大「ならず者国家」は、戦略的な連携に向かうとの見方もある。

 北朝鮮は11月18日、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)、「火星17」の発射実験を行い、金正恩労働党総書記が娘を連れて現場に立ち会った。今年に入って北朝鮮が行ったミサイル試射は18日までに34回で、大小合わせて計67発のミサイルを発射。2019年の25発を上回り、過去最高の発射数となった。

 ロシアは10月以降、ウクライナの電力施設など民間インフラへのミサイル攻撃を強化し、発電能力の約50%を破壊。約1000万人が停電生活を強いられた。ロシアは占領地でウクライナ人を大量にロシアに強制連行しており、「特定された子供だけで1万1000人に上る」(ウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領)という。

 この2つの「ならず者国家」は、ロシアのウクライナ侵攻後、経済・軍事面で関係を強化し、ウクライナ侵攻とミサイル開発で相互支援する動きがみられる。国際的非難を浴び、孤立する朝露の危険な「闇の同盟」を探った。

国連決議でロシア擁護

 北朝鮮は2020年の新型コロナウィルス拡散後、国境を閉鎖して貿易を制限した。必需品も入ってこなくなったため、平壌の外交団や国際機関スタッフの大部分が出国した。在平壌ロシア大使館も大使ら数人が残るだけだが、今年に入って朝露関係は急速に緊密化した。

 ウクライナ侵攻後、国連総会では「ロシア非難決議」「ロシアのウクライナ4州併合非難決議」「ロシアにウクライナへの損害賠償を求める決議」などの決議案が圧倒的多数で可決されたが、北朝鮮はいずれも反対投票した。一連の採決で毎回ロシア擁護に回ったのは、北朝鮮、シリア、ベラルーシ、ニカラグア程度だ。

 ロシアが2月にドネツク、ルガンスク両州の「独立」を承認すると、北朝鮮も直ちに同調。ロシアが9月に東部、南部の4州を一方的に併合すると、北朝鮮もこれを支持し、ウクライナ政府は報復として北朝鮮と断交した。

 ロシア側も国連安保理で、北朝鮮のミサイル発射への非難決議案や制裁案が提出されるたびに拒否権を行使し、北朝鮮を擁護した。

頻繁に行われるプーチンと金正恩の祝電交換

 ウラジーミル・プーチン、金正恩両首脳の祝電交換も、今年は頻繁に行われた。金総書記は6月の「ロシアの日」にプーチン大統領に祝電を送り、「友好協力関係の発展と戦略的な協力の緊密化」を訴えた。

 8月15日の北朝鮮の「祖国解放記念日」では、プーチン大統領が「総合的で建設的な両国関係を拡大する」「関係拡大は両国人民の利益に合致し、朝鮮半島と東アジアの安全・安定を強化する」と伝えた。金総書記は「敵対勢力の軍事的脅威と挑発との戦いで、両国の連携は新たな段階に達した」と応じた。

 10月7日のプーチン大統領の70歳の誕生日に際しても、金総書記は「あなたの卓越した指導力と強靭な意志が、ロシアを米国と追従勢力の脅威から守った」と称えた。

 米財務省は今年2月、プーチン大統領個人に資産凍結などの制裁を発動した際、プレス向け資料で「プーチン氏は金総書記、アレクサンドル・ルカシェンコ・ベラルーシ大統領の仲間入りした」と皮肉っていたが、欧米の制裁による孤立が、両首脳の個人的関係を深めた。

 プーチン、金両首脳は2019年4月にウラジオストクで一度会談しただけだが、両国の急接近を受けて、来年、金総書記が訪露するとの見方も出ている。

ロシアに武器を提供か

 北朝鮮とロシアは経済・軍事関係を重視し、11月2日、国境を越えた鉄道貿易をほぼ2年半ぶりに再開した。「インタファクス通信」によれば、ロシアの貨物列車がサラブレッド馬30頭を積んで国境から北朝鮮に入ったという。馬は北朝鮮の神話や政治文化で象徴的な意味を持ち、ロシアからしばしば輸入している。20年、21年の両国の公式貿易はほぼゼロだった。

 韓国の北朝鮮専門メディア、「デイリーNK」が8月に報じたところでは、北朝鮮は小麦粉とエネルギーを輸入するため、ロシア各地に貿易事務所を開設。ロシアは欧米の禁輸措置で余っている石油や石油製品を北朝鮮に安価で提供するとの情報もある。

 北朝鮮はウクライナで苦戦するロシア軍のために、戦闘服を製造している模様だ。米政府系放送局、ラジオ・フリー・アジア(RFA)は11月、ロシアから北朝鮮に布地が送られ、平壌の縫製工場で冬用の戦闘服と下着の生産が行われていると伝えた。ロシアは予備役約30万人の動員で戦闘服が不足している。

 戦争長期化で兵器不足に陥ったロシアが、北朝鮮から砲弾を購入するとの情報も伝えられた。「ニューヨーク・タイムズ」紙(9月5日)によれば、ロシア国防省は戦場で使うため、ロケット弾や砲弾数百万発を北朝鮮から購入する手続きに入ったという。米政府高官はこの情報を確認し、「取引はまだ締結されていない」と述べた。

 これに対し、北朝鮮国防省は「ロシアに武器・弾薬を輸出したことはなく、今後もその計画はない。北朝鮮のイメージに泥を塗る米国の宣伝だ」と反発した。ロシアの国連大使も「偽情報だ」と否定した。

 武器輸出説について、ロシアの朝鮮問題専門家、アルチョム・ルキン極東連邦大学准教授は、米シンクタンク「38North」(9月27日)に寄稿し、「北朝鮮は膨大な弾薬の備蓄と大規模な軍需産業を有している。兵器の多くは旧ソ連の規格に基づくため、軍需品はロシア軍の兵器と互換性がある。韓国がポーランドに兵器を供給すれば、北朝鮮はロシアに兵器を売却する可能性がある」と指摘した。

 韓国はポーランドに戦車1000両など大型の武器輸出計画を進めているが、プーチン大統領は10月の「バルダイ会議」で、韓国がウクライナなどに武器を提供するなら、ロシアは北朝鮮との協力を強化すると警告していた。

北朝鮮から義勇兵10万人、労働者5万人?

 8月には、北朝鮮軍10万人が義勇兵としてウクライナ戦線に投入され、戦闘に参加するとの噂が流れた。これは、ドンバス地方の親露派勢力がSNSで伝え、ロシアや欧米のメディアが取り上げた。

 米誌「ニューズウィーク」(8月18日)は、「北朝鮮軍はロシア軍より強い」とし、「シリア内戦に派遣された2つの北朝鮮特殊部隊は、シリア反政府勢力から『死ぬほど危険な集団』と恐れられた。10万という数字は信じがたいが、ロシア軍や親露派との連携がうまくいけば、戦況を変える可能性がある」とする米軍事専門家の寄稿を掲載した。しかし、ロシア外務省が「完全なフェイクだ」と否定し、立ち消えになった。

 ルキン准教授は、「北朝鮮はこれまで、部隊を海外派遣したことあがるが、限定的な規模だ。言葉の壁や共同訓練の欠如から、ロシア軍との相互運用性に問題がある。プーチンが9月に発動した部分動員令で、外国軍参加の可能性は消えた」と指摘する。

 むしろ、ロシアが一方的に併合宣言したドンバス地方の復興に北朝鮮労働者を招く可能性がある。ロシアのアレクサンドル・マツェゴラ駐北朝鮮大使は「イズベスチヤ」紙(7月18日)で、「高い能力を持ち、勤勉で厳しい環境でも働ける北朝鮮の建設労働者は、ドンバス地方の社会、インフラ施設の再建に重要な役割を果たせる」と述べ、労働者誘致計画が進んでいることを明らかにした。

 北朝鮮は長年、外貨獲得のため海外に労働者を輸出しているが、ロシア向けが最も多く、約3万の労働者が極東やシベリアで建設、農業、林業などに従事。北方領土にも数百人がいたことが確認されている。

 ルキン准教授は「国連安保理は制裁の一環として、北朝鮮労働者の受け入れを禁止したが、ロシア政府は労働力不足から北朝鮮労働者の受け入れを交渉している。2万から5万の労働者が招聘される可能性がある」と書いた。一部はドンバス地方の復興に回されるかもしれない。

先制核使用を認めた両国

 北朝鮮は22年、短距離ミサイルやICBMを異常な頻度で発射し、ミサイル技術の進展を誇示したが、背後でロシアが技術支援しているとの疑惑も根強い。

 5年前の米紙「ワシントン・ポスト」(2017年12月27日)は、北朝鮮がミサイル技術の一部をロシアから得たことを示すロシア機密文書を入手して報道し、北朝鮮中距離ミサイルのエンジンがロシア製と酷似していると伝えた。ロシアのマケエフ・ミサイル設計局が製造したエンジンが輸出され、技術者が指導した疑いがあるという。

 北朝鮮が今年、頻繁にミサイル試射を行うのは、ウクライナ侵攻で米国の関心が欧州に集中し、東アジアでの抑止力が低下した隙を狙ったとの見方がある。孤立するロシアが、国連安保理決議に違反して先端ミサイル技術を北朝鮮に提供するかもしれない。北朝鮮は既に、低空で軌道を変え、迎撃が難しいロシア製短距離ミサイル「イスカンデル」に似たミサイルも保有している。

 北朝鮮は9月の最高人民会議で、核武力政策法という核ドクトリンを採択。従来の核先制不使用の方針を撤回し、国家の存立が脅かされた場合や国家への大量破壊兵器による攻撃が行われた場合などに核兵器で対抗する「核使用5条件」を法制化した。これは、プーチン政権が2020年に制定した「核使用4条件」に似ており、ともに先制核使用の原則を打ち出した。

 プーチン大統領はウクライナ侵攻で、しばしば「核の恫喝」を行って欧米諸国の介入を牽制しており、金総書記もこれに学んだ可能性がある。

 前出のルキン准教授は「モスクワと平壌は冷戦時代に存在し、ソ連崩壊後に解消された同盟関係を再構築しようとしている。新たな関係は条約に基づく同盟というより、戦略的な連携になる」と指摘した。

 3期目に入った中国の習近平政権が朝露と結託して「悪の枢軸」を築くか、それとも両国と距離を置くかが、今後の東アジア安保に重要な意味を持つ。

カテゴリ: 軍事・防衛 政治
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執筆者プロフィール
名越健郎 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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