2023年のビジネスも揺さぶる地経学的「5つの争点」

「アメリカに振り回される日本」というリスク要因も想定する必要がある (C)EPA=時事
対ロ経済制裁、あるいはアメリカの対中半導体輸出規制など、2022年は「経済的手段を使った地政学的国家戦略の実現」すなわち「地経学」が国際情勢を大きく動かした。ビジネス環境も激変させ得る「5つの争点」から、2023年のリスクを地経学的に捉えて行く。

 2022年は地経学、すなわち経済的手段を使った地政学的国家戦略の実現、という観点から見ても激動の一年であった。

 2月24日のロシアのウクライナ侵攻に伴う対ロ経済制裁と、それに対抗するためにロシアが繰り出した、天然ガスなど資源の「武器化」が大きな争点であった。これに加えてアメリカによる対中半導体輸出規制の強化や、「インフレ抑制法(IRA)」による電気自動車への補助金を巡る問題、「CHIPS法」に基づく半導体産業への補助金問題など、アメリカの経済安全保障戦略が大きく動いた。また、中国のゼロコロナ政策によるロックダウンで世界的な物流が停滞し、グローバルサプライチェーンにおける中国の影響力の大きさを嫌でも認識せざるを得ない年でもあった。さらに、日本では経済安全保障推進法が成立し、世界に先駆けて地経学的なリスクへの対処が始まった。

 こうしたダイナミックな変動のあった2022年が終わり、新たな年が始まるが、果たして2023年は地経学的にどのような年になるのであろうか。ここでは5つの争点について、その見通しを論じてみたい。

争点1. 「安全保障」から発想するアメリカの対中政策

 バイデン政権は発足前から中国に対して甘いのではないかといった見立てがあったが、過去2年間の対中政策を見る限り、中国に対して強硬路線を取ったトランプ政権の後半よりも強い姿勢で中国と対峙している。2022年11月14日に行われた米中首脳会談では、3期目に入って余裕ができた習近平国家主席との間で、双方とも協力可能な分野として環境問題や食料安全保障などに歩み寄る点も見られたが、台湾問題や人権問題などでの対立では一致点は見られなかった。

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カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
鈴木一人(すずきかずと) すずき・かずと 東京大学公共政策大学院教授 国際文化会館「地経学研究所(IOG)」所長。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、編・共著に『米中の経済安全保障戦略』『バイデンのアメリカ』『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』『ウクライナ戦争と米中対立』など多数。
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